常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

cut one's teeth

ケネス・ブラナーといえば,一流の喜劇俳優であり,またシェイクスピア俳優です。シェイクスピアの翻案を監督させたら,今の時代では右に出るものはいないと思います。今回は,The Guardianの日曜版The Observerに載っていたブラナーに関する記事から英語表現を拾います。
And it is true that Branagh cut his teeth at the Royal Shakespeare Company in the 80s and that he went on to direct and star in a number of highly successful Shakespeare adaptations for the big screen, including the Oscar-nominated Henry V (1989), Much Ado About Nothing (1993) and Hamlet (1996).
http://www.guardian.co.uk/culture/2011/oct/09/kenneth-branagh-the-painkiller-interview?INTCMP=SRCH
赤字で示したcut one’s teethとは何のことでしょうか。結論から申し上げると,これは「最初の経験を積む」や「学び始める」という意味です(『オーレックス英和辞典』旺文社)。ここではRSCが言及されているので「RSCで芝居を学び始める」と訳せると思います。自動詞cutには,「(赤ん坊の)歯が初めて生える」という意味がありますから,ここからcut one’s teethが「最初の経験を積む」という意味になったのだと考えられます。Oxford Advanced Learner’s Dictionaryで意味を確認すると“gain experience from sth.”とあります。さらに,LDOCE 4th Eds.ですと“to get your first experience of doing something and learn the basic skill”とあります。後者を踏まえるとブラナーの俳優としての基礎は,RSCで養われたことになります。
補足説明ですが,太線で強調したadaptationとは「翻案」のことです。翻案とは,「プロットはそのままに,歴史背景や人物の性別などを書き変えた改作のこと」です。たとえば,黒沢明監督の『蜘蛛巣城』は,『マクベス』のプロットをそのまま日本の戦国時代に置き換えた『マクベス』の翻案ということになります。
彼の出演したシェイクスピアの翻案でお勧めは,喜劇『から騒ぎ』です。こちらは,噂から恋が芽生え,女性の尻に敷かれるブラナーの演技が素晴らしく飽きません。そして悲劇は,豪華キャストの『ハムレット』です。主人公ハムレットがずっと出ずっぱりなので,彼がどんな演技をするのかなど気になる人は観てみてください。イアゴーを演じた『オセロー』は,オリヴァー・パーカー監督の過剰な演出やミスキャストなどが気になりますが,『オセロー』の翻案の映画で,初めてオセロー役としてアフリカン・アメリカンの俳優を起用したの歴史的な意義などもあるので,気になったらこちらも観てみてください。(Othello)
Othello(1995) 「誘惑の場」6分以降の鏡を使った白と黒の対比は見もの。
http://www.youtube.com/watch?v=Iu7FgXSD_Vg
Hamlet(1996) 「第三独白」鏡の使い方などの演出もブラナーの演技も素晴らしい。
http://www.youtube.com/watch?v=7740lGif65Y