常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

Schadenfreude Revisited

 旧聞に属しますが、下の子供が大学での授業でドイツ人の先生から示されたのがこれです。

  

 大衆紙の皮肉たっぷりのこの見出しに件の先生はご立腹のことだったと推察します。わたしにはこの単語、Schadenfreudeには懐かしい思い出があります。この言葉を初めて教えてくださったのが高校教員のときに出会った主任の先生でした。以下、10数年も前のエッセイの一部です(拙著編『かんばろう!イングリッシュ・ティーチャーズ』三省堂より抜粋)。(UG)

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 最初の赴任先は工業高校でした。正直,ちょっぴりショックだったのですが,今,思いますとそれがかえって幸運だったと言えます。その高校で出会ったのがY先生でした。先生は英語科主任で一見,フツーの'おじさん'でした。数学の先生に「あんたなあ,Yさんを甘う見ちょったらいかんで!」とご忠告をいただいたものの,大したことはないとたかをくくっていたんです。
 その時分はギラギラしてまして,相手と英語の勝負だとか,思い上がった考えをしていました。若気の何とやらで赤面ものです。しかし,その先生とは勝負以前の問題でした。小生の浅薄な英語力では,到底太刀打ちのできない方だったのです。そしてY先生からは半月も経たない内に「あんたもっと勉強せんと,英語を教えるのは犯罪だよ」とのお言葉をいただいたのでした。先生とのエピソードは無数にありますが,代表的なものを箇条書きにします。

『大英和辞典』,『大和英』などを網羅,驚異的な語彙・表現力
言語に関する圧倒的な知識→言語学的知識
Polyglot (英,仏,独,西,露,伊,ラテン,ギリシアなどに熟達)
Everyman's Library,『英米文学叢書』全巻などを読破
MEF (Monbusho English Fellow)の報告文を添削
Time/ Newsweek/ The New Yorker/ The Economistなどの英文をrewrite
入試問題の出典あて
17歳までにShakespeareの全作品を読破
ことわざ,名文,名詩,映画の名セリフの暗誦
英語による短編小説の執筆,詩作(日英)
達意の英文ライター
詩人「詩は祈り」
 
 実際,先生はすごかった。すべてをここで語ることはとてもできませんが,例えば『新英和大辞典』。前の版は第5版でしたか,そのすべてに精通されていたんです。巻末のForeign Phrases & Quotationsまで,全部なんです。初め「うそじゃろ!」なんて内心思っていましたが,そんなありえないことがありえたのです。
 職員室では机が隣りでしたから,いろいろな教えを受けました。例えば「あんた,Roman Holidayの意味は?」とか聞かれるのです。「映画の'ローマの休日'ですよね…」という位の答えは出来たと思いますが、「'Roman Holiday'っていうのは'人の苦しみを見て喜ぶ,得る快楽'というのが元々の原義じゃよ。これを同じ意味を持つドイツ語で言い換えてなさい。」などと畳かけられます。今だから言えますが,Schadenfreudeですよね。
 その内,登校すると机の上にメモが置いてあります。これをどういう意味か文法的に解説しなさいとか,添削をしなさい,英訳しなさいというようなお題が出て,帰るまでにやりなさい,というような課題が出るのです。そういう風に先生との修業の日々がはじまったのです。

PS 脳科学者の中野信子さんが『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』という新書を幻冬舎から出されたようですね。今度、読んでみます。