常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

薔薇の下で

THE DAILY YOMIURI(2010年5月24日付け)の「編集手帳」日英対訳を読んでいたらあることに気づきました。まずは日本語の原文を載せます。
「◆薔薇を天井から吊るし,その下での話は秘密にしたローマ時代の逸話がのこる。『薔薇の下で』が『秘密に』という意味にもなった。」
次に,その部分の英訳です。
“An anecdote from Roman times says that a rose was hung from the ceiling when people met, and any issues spoken under the rose were made secret. The term ‘sub rosa’ (under the rose) came to mean ‘secretly’ ”.
gacha君が以前「rosyな想い」(http://d.hatena.ne.jp/A30/20100523/1274602476)で紹介してくれた通り,バラは「明るい未来や希望・幸福の象徴する色」とされています(『明鏡国語辞典』大修館書店)。しかし,上の対訳を読むとどうやら,バラにはそれ以上に付加的な意味があるようです。実際にsub rosaを辞書で調べてみますと「秘密に,密かに《◆ラテン語で「バラの下に」;バラは秘密の象徴》」と出ていました。(バラの花の下で当時の人はどんな秘密の話をしたのか気になりますね。—バラのパーゴラの下ですることと言えば,小山本さんに聴いてみよう,っと!)英語圏ではバラという言葉に「秘密」というニュアンスが付随しますが,日本語でバラを調べてもそのような意味はありません。ローマ時代の逸話はヨーロッパ言語である英語には影響を及ぼしましたが,その影響はウラル・アルタイ語族である日本語までは届かなかったと考えられるのではないでしょうか。
そういえば以前,田邉先生がある授業で無性物主語を説明されている最中にこのようなことをおっしゃっていたのを思い出しました。「文化と言語は切っても切れない関係にある。文化によって人々が見る世界の『切り取り方』が違う。」と。そのことを対訳の読み比べをしながら実感しました。言語間に存在するperception gapをいかに紡いでいくかが,コンテストを控えている4年生の課題かもしれません。頑張れ!(ゼミ生 camel)