常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

LL外国語教育研究会の感想

6月29日火曜日,専修大学生田キャンパスにてLL外国語教育研究会主催の講演会が開催されました。
       
講演会は大変面白く,みなさんにもそのflavorをshareしたいと思い,以下,要約を試みます。演目と発表者は以下の通りです。
演目:“Why is /nait/ spelled ‘night’?”:A lesson on the difference between English pronunciation and spelling(「英語の発音と綴り字はどうして異なるのか」)
演者:Prof. Stanley Whitley (Department of Romance Languages, Wake Forest University)
http://d.hatena.ne.jp/A30/20100628/1277718110
噂を聞きつけ会場内は学生で満員(full house,SRO; standing room only)になりました。なぜ英語は綴り字と発音の間に開きがあるのかという英語学習者であればだれでも一度は思う素朴な質問をWhitley先生は専門用語をできるだけ避けわかりやすく説明してくださいました。
Whitley先生は「我々は1400年代のスペルを未だに使い続けている」と強調されていました。それ以前は音声と文字は連動していて,スペリングと発音の乖離はなかったそうですが,1455年グーテンベルク(Gutenberg)によって発明された活版印刷(printing press)技術によりある変化が生じました。活版印刷のおかけで識字率が向上しましたが,その一方で文字の定着化も急速に進みました。なぜかというと,文字を紙の上に記すためどうしても画一的な標準語が必要だったからです。結果として,それまで曖昧だった綴り字や文法が正確に定義される(be nailed down)ようになりました。Whitley先生がおっしゃるにはこの動きこそが発音と綴りの開きの原拠だそうです。1500年を境に英語はMiddle EnglishからModern Englishへと移行しましたが,その際大母音推移(The Great Vowel Shift)という母音の発音の変化が起こりました。また語の短縮(contraction)や“r”を発音しないR-droppingなども音声に大きな変化をもたらしました。しかし,綴り字の方は活版印刷の発明時にすでに細かく定義されてしまっていたため,音声に伴って変化することはありませんでした。このことからわかるように,音声は現在も日々変化しているが,綴りは未だに1400年代の頃のシステムに取り残されたままになっているのです。Whitley先生はこのような言語特有の恣意性(arbitrariness)が英語の発音を難しくしているともおっしゃっていました。
英国の劇作家George Bernard Shawなど様々な人物が混乱を避けようと綴り字の簡略化を図りましたが,その度根強い抵抗に屈し結局成功しませんでした。歴史上の事実からも,これからもスペリングが簡単になることはないようです。スペリングを簡単にする解決法はありませんでしたが,英語母語話者でさえ英語の綴りを“a crazy writing system”と称していたのが印象的でした。英語の綴りが苦手で単語が覚えられないと思っている人がいたら,多少それは英語のせいかもしれません。短い講演でしたが,有意義な時間を過ごすことができました。(ゼミ生 camel)