常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

It's about (high) time考

本日も会議のためホテルにきています(最終日!)。この数日間、久しぶりに複数の企業のプロ通訳者(社内通訳者 in-house interpreter)の方々と仕事をしていますが、そこからひとつ。

日本の某企業の通訳者が役員の「そろそろ真剣に考えるべき時期にきています。」といった趣旨の発言を、It's about time that you started giving it a serious thought.と即座に処理していました。It's about (high) time (that) S+ P.は、高校で学ぶおなじみの仮定法の構文です。でも今回に限って、これを聞いたアメリカ側は少しカチンときたようで、事実、会議のトーンはその後、ぎすぎすしたものになってしまいました。

なぜでしょうか。It's about time構文の定義はこうです。"If you say it's high time that something happened, you mean that it should already have been done."(Cambridge Idiom Dictionary)ここから、一般に「そろそろ〜する時間/頃だ」という訳が与えられて、わたしたちもそう覚えています。

しかしながら、It’s about time you went to bed, young man.や It’s high time that you quit smoking.など、おきまりの例文の背景をじっくり読み込むと、そこには「いいかげん〜しなさい」といった意味合いの批判めいたものがことばに含まれる可能性に気づきます。

普通はイントネーション(言い方)、顔の表情などのNon-verbalな要素や前後関係(文脈)などから、その「上から目線」的意味合いは薄められるのですが、今回はどうも悪いツボにはまったものと思われます(守秘義務のため背景を書けないのがつらい...)。

ともあれ、ぎすぎすした雰囲気はアメリカ側の機知に富んだジョークによって和らげられ(やはりうまいなぁと感じ入りました!わたしが訳したのだけど...)、最後は見事、「一本締め」と相成ったのですが、夕方のパーティーで、通訳者の彼女の方がこれを持ち出してきました。よほどこたえたのでしょう。

彼女は英語圏での生活が長く、英語も見事なものなので余計なこととは思いましたが、It's about time構文が持つ両義性(意味の諸刃)とthat節の中の主語のchoice(今回はweとすればことなきを得ることができたはず)、さらに一般的な語用論(Pragmatics)に関しての私見を述べておきました。

今朝、その彼女からメールが届いていました。そこには感謝の言葉と「英語使いの英語知らずではいけないことを痛感しました。」とありました。

今日は別の企業なので、残念ながら彼女には会えませんが(Koyamamotoくん好みです!)、機会があればゼミにご招待するつもりです。さて午前中の会議の開始時刻 10:30になります!行ってきます!(疲れているけど...)(UG)