常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

outfox and out-herod [Othelloの拾った英語表現3]

シリーズの続編です。ここの箇所もまた,グっときます。イメージがつかめない方は,新品の本を売っている大衆店とこぢんまりとした古本屋をイメージするとわかりやすくなると思います。

The atmosphere here is palpably different to the kind you'd find in HMV. Where HMV's vacuumed aisles thrum with relaxed browsers, this dusty hall is alive with antennas twitching, a blokey community, certainly, but a competitive one, too, each hoping to outfox the other, with every stallholder not just grateful, but desperate, for the custom.

最初にoutfoxについてです。接頭辞out-は「・・・以上に,・・・より勝って」という意味になります。foxは名詞で「ずるがしこい人,狡猾な人」という意味があり,名詞で「欺く,だます」という意味があります。ここからoutfoxは「出し抜く」という意味になります。LDOCE 4th Eds.であれば,“to gain an advantage over someone by using your intelligence”と定義されています。キツネの「ずる賢い動物」というイメージが使われています。

赤字箇所の文を「HMVがリラックスした客のために通路の埃を掃除した雰囲気と違い,こちらの薄汚い廊下は,センサーを常に動かして営業している,まごう事なき男臭い場所なのだ。それでも,競争的な場所でもある。それぞれの店は,ほかの店を出し抜こうとしている。店のオヤジはそんな習慣にありがたく思うだけじゃなくて,がっかりもするのだ。」と訳せます。

さて,接頭辞out-に戻ります。これはシェイクスピアの劇が好きな自分としては,少し真面目にやらなくてはなりません。「通訳入門」に出席している学生さんは,先生の説明と私の説明を思い出してください。シェイクスピアが『ハムレット』を執筆していた1600年から1602年。この時代には,今ほど英語は多くありませんでした。そんなとき天才シェイクスピアは,どうしたでしょうか。

シェイクスピアは,既存の単語に,接頭辞out-をくっ付けて,自分で言葉を作り出してしまったのです(coinageと言います)。特に接頭辞out-を人名に(無理やり?) くっ付けた第3幕第2場の台詞 (“Speak the speech”) は有名です。さっそく台詞を見てみましょう。韻文ではなく散文の台詞で,ハムレットの焦りと期待が露呈する場面です。

Hamlet … I would have such
a fellow whipped for o'erdoing Termagant;it
out-Herods Herod: pray you avoid it.
ハムレット …あんな役者には異教徒の神ターマガントよりも酷く
鞭で打ってやりたい。ユダのヘロデ王よりも酷くな。
そんな演技だけはやめてくれ。
(第3幕第2場28-30行,強調・訳筆者)

このように王子ハムレットは,物語の中で上演される劇中劇(play-within-a-play)の一場面を,旅芸人に演技指導を行います。そこで,下手な演技をしないよう注文するわけですが,そこでout-Herods Herodという単語を作り出してしまいます。『リーダーズ英和辞典』によると「《残忍さなどで》しのぐ,暴虐な点でヘロデ王にまさる,暴虐をきわめる」とあります。

ちなみにヘロデ王についてですが,松岡和子先生の解説によると「幼子イエスを殺そうと,ベツレヘム近くの地方の2歳以下の男子をすべて虐殺させた。」とあります。このハムレットの台詞は,劇のなかでも重要な台詞のひとつです。今度,まとめて書きたいと思います。(Othello)