常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

everything they do is make-believe

わたしの読書経験はまだちっぽけなものですが,それでも魂が揺さぶられるようなことばに出会うことがあります。今、読んでいる『ケンジントン公園のピーター・パン』でもそんな出会いがありました。紹介します。
One of the great differences between the fairies and us is that they never do anything useful. When the first baby laughed for the first time, his laugh broke into a million pieces, and they all went skipping about. That was the beginning of fairies. (中略) They are frightfully ignorant, and everything they do is make-believe. (Chapter 4, Lock-Out Time)
最初の文は,「妖精とわたしたちの大きな違いとは,妖精は役に立つことをまったくしないことだ」とあります。ジョークの利いた愉快な文です。
続いて,2文目の赤子(人間のはじまり)の笑い声から妖精が生まれる過程が説明されます。ここでは,妖精の誕生について森羅万象のはじまりかのように描かれています。ピーター自身も生まれて7日目の子供ですし,ここも直接的な引用ではありませんが,なんとなく『旧約聖書』「創世記」のような香りもします。本文のskipping aboutは,躍動感をもって陽気に「笑い声」が跳ねているように感じます。妖精の「役に立つことをまったくしない」悪戯っぽさと愛らしさも垣間見ることができます。綺麗な文ですし,この小説の中でも好きな箇所です。
そして,次の文もなかなか心に来るものです。文中のmake-believeとは「見せかけ,空想」といった意味です(『リーダーズ英和辞典』研究社)。読んでいてハッと気付いたのは,わたしも妖精のようになってはいないか,と言うことです。無知であることを知ることは良いことですが,やっていることがただの「見せかけ」や「空想」だったら意味がありません。このように「ピーター・パン」シリーズは,児童文学ですから,子供に向けた教訓や心に残る言葉が出てきます。しかし,このようなジョークや皮肉的な文に,ときどき胸が刺されるような気にさせます。(Othello)