常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

he steals back to the island

前回に引き続き『ケンジントン公園のピーター・パン』(Peter Pan in Kensington Gardens, 1903年 )から英語表現を拾います。最初に諸注意なのですが,ディズニー映画などのモティーフとなっているのは,『ピーター・パンとウェンディー』(Peter Pan and Wendy, 1911年)です。紛らわしいのですが,ここで扱うのは,ピーター・パンの出生などが描かれた『ケンジントン公園のピーター・パン』です。
ケンジントン公園の池の孤島にいる7歳の半分人間,半分妖精のピーターは,ボートに乗って公園に戻ろうとします。実際にボートに乗ったのですが,いろいろと問題が起きます。今回は,最初の航海から英語表現を拾います。ここでの“he”はピーターのことです。
Long before the time for the opening of the gates comes he steals back to the island, for people must not see him (he is not so human as all that), but this gives him hours for play, and he plays exactly as real children play. (Chapter 3, emphasis adds)
このstealは「盗む,こっそり取る」という意味ではありません(『リーダーズ英和辞典』研究社)。これは「そっと行く(来る),忍び込む,こっそり抜け出す」という意味です(同上)。日本語の意味を見てわかる通り,「こっそり」といったニュアンスのある言葉です。本文で書かれているように,戻ってくるのは,「門が開くよりもずっと前」の朝で,それは「人に見つからないため」です。もちろん,朝ですので静かにしなければいけません。ましてや,人に見られてはいけないのですから,ただgo backしただけでは,物音がして騒がしいので,人に気づかれてしまいます。結果,このstealは,次の“for people must not see him”(「(妖精であるピーターが)人々に見つからないため」)を強調していることになります。
野球などの経験のある方には,「盗塁をする」という意味でstealは馴染みのある言葉でしょう。また,steal away fromなどもよく見る表現です。簡単な言葉ですが,一度立ち止まって,どんな意味合いで使われているのかなど考えるのは重要な気がします。文や文章にどんな効果を与えているのか,読み手はどんな印象を受けるのか,読みながら頭の中で描いている風景はどんな風に変わるのか,など考えてみると,読む行為が楽しくなるように思います。(Othello)
Cf. http://d.hatena.ne.jp/A30/20100920/1284989477
http://d.hatena.ne.jp/A30/20110501/1304216073