常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

Let your tongue run away with you chapter 2

前回は,tongueとspeechの関係について少し書きました(http://d.hatena.ne.jp/A30/20110905/1315166401)。今回でシリーズも完結となります。最初に改めて辞書で意味を確認し,tongueの使われ方のほんの一握りの例を吟味します。
OEDで現在の私たちが考える舌の能力以外の意味,つまり喋る能力が備わっていたと考えられていた時代の意味を確認します。
4. a. considered as the principal organ of speech; hence the faculty of speech; the power of articulation or vocal expression or description, voice, speech; word, language.
                          (Oxford English Dictionary, emphasis adds)
興味深いのは,現代で一般的に考えられているtongueよりも7年も早い890年に,すでに4.a.の意味が使われていたことです。当時は,舌は言葉を生み出す体の器官だと考えられていたのです。続いて,自分が確認できる4.a.の意味のうち一番古い例をみてみます。
最初に『ロミオとジュリエット』(The Most Excellent and Lamentable Tragedy of Romeo and Juliet,初演1593年?) を例に挙げます。場面は,有名な「おおロミオ〜」の後,第2幕第1場「バルコニー・シーン」です。
JULIET
  My ears have yet not drunk a hundred words  
  Of thy tongue’s uttering, yet I know the sound.
  Art thou not Romeo, and a Montague?
ジュリエット
  わたしの耳はまだあなたの舌の発する
  100の言葉を飲み込んでないわ,でもわかるの。
  あなたはロミオじゃなくて,モンタギュー家の人なの?
                        (Romeo and Juliet, 2.1. 101-103. 強調・訳筆者)

ここでは明らかに舌がことばを発するということがわかります。
ウィリアム・シェイクスピアの『オセロー』(Othello, 初演1602年?) にも,たくさんいい例がありますが,第5幕2場に短くてわかりやすい例があります。イアゴーの台詞で“With Cassio, mistress. Go to, charm your tongue(「キャシオーとだよ,奥さん,いいから黙ってろ」)”(5.2. 183.)があります。オックスフォード版編者マイケル・ニールによれば“charm your tongue”で“be silent”の意味になるとしています。
ほかのシェイクスピアの劇ですと『お気に召すまま』(As You Like It, 初演1599年)のオーランドーは恋に落ちた相手に上手くしゃべれないことを“What passion hangs these weights upon my tongue?/ I cannot speak to her, yet she urged conference.”(「熱い気持ちはおれの舌をぐっと押し付けるのか?/ せっかくロザリンドが話を催促したのに,おれは喋ることもできない」)(1.2. 243-244)と表現しました。
長くなりましたが,tongueとspeechの関係は探せば膨大な量になります。このような身体と能力の関係は興味深く感じます。前回のLet your tongue run away with you.も,もし機会があれば「ここぞ!」という時に使ってみてください。(Othello)
以前にもtongueに関する言葉は取り上げられていますので,こちらもご参照ください。
http://d.hatena.ne.jp/A30/20110610/1307657881
http://d.hatena.ne.jp/A30/20110117/1295190450
http://d.hatena.ne.jp/A30/20101201/1291207092
http://d.hatena.ne.jp/A30/20101016/1287232524