常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

Let your tongue run away with you

引き続き『ウィンダミア卿夫人の扇』(Lady Windermere’s Fan, 初演1892年)から英語表現を拾います。今回は視点を変え,普通に生活をしていても使えそうな表現を選びました。
場面は第3幕。前回と同じく男たちが何やら話しています。話している内容は,アーリン夫人について。ダンビーや他の輩が彼女について,いろいろな憶測を言っています。それにたいするウィンダミア卿の台詞です。
LORD WINDERMERE Dumby, you are  ridiculous, and Cecil, you let
 your tongue run away with you. You must leave Mrs. Erlynne
 alone. You don't really know anything about her, and you're
 always talking scandal against her.
                           (Act 3, 266-269, emphasis adds)
赤字で強調した箇所について考えてみます。意味はおわかりの通り「お前、変なことを言ってるぞ!」などになります。普通に“Be quiet”や“shut up!”, “No talking!”など言うよりも,洒落た表現だと思います。一語ずつ意味を確認しますとtongueは「舌」,run away withは「〈感情などが〉(人)の自制心を失わせる」となります(『ジーニアス英和辞典』大修館書店)。なんとなく「アーリン夫人を変に探って,それを口にするのをやめろ」という気持ちも入っているような気がします。
実際に台詞を訳してみます。ウィンダミア卿「ダンビー,お前は愚かなやつだよ。そしてセシル/ 君は変なことを言うのは止さないか。アーリン夫人をそっとしてやれよ/ お前たちは彼女についてほとんど何にもしらないだろ。/ しかもいつも彼女の陰口ばかり言うんだな。」となります。
ここでtongueだけに焦点を置きます。tongueを辞書で引いてみますと 「2, a.《ものを言う》舌,口,話す能力 b. ことば,発言,談話,おしゃべり,弁舌,ことばづかい,声音,話し方,話しぶり」などがあります(『リーダーズ英和辞典』研究社)。つまり,生物学的な舌だけではなく,心理的に〈舌〉は話す能力(speech)に結び付けられるようです。わたしの手元にある一次資料で確認できるものとして,少なくとも16世紀後半から17世紀初期の時代に英語を母語とする人は,舌にはしゃべる能力が備わっていると考えていたようです。次回はそれがわかる記述をご紹介いたします。(つづく)(Othello)