常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

electronic toll collection 復習

 世間を騒がせている東芝の不正会計問題について特別調査委員会及び第三者委員会報告書(6月12日時点での調査報告)が同社HPに掲載されていたため,何が問題であったのかを調べてみました。現状で最も修正金額が大きいのは工事進行基準に関わる会計処理を適用して計上された金額です。

2段落目までは不正に利用された会計処理の説明です。
 
 会計には売上を「いつ」認識するのかという重要な問題があります。たとえばスーパーマーケットが販売する生活用品等は,お客さんがレジで商品の代金を支払った時点で売上が認識されます。この事例を電力設備の建設工事に当てはめて考えてみます。スーパーマーケットのケースと同じように考えれば,完成した電力設備を受注者に提供することで売上が認識されるはずです。しかし,工事には完成まで長期間かかるものがあります。この場合,工事は着々と進んでいるにもかかわらず,建設会社の建設中の成果が売上として計上できません。また,会計上は売上に対応して売上原価(今回のケースでは建設費用)が計上されるため,この金額も計上できないという問題が生じます。そこで工事の進み度合に応じて売上と売上原価を計上しようと考える会計基準工事進行基準に関わる会計処理です。
 工事進行基準に関わる会計処理を行うには3つの情報が必要です。第1に工事受注金額です。受注金額が工事会社に入る売上となります。第2に,工事原価総額の見積情報です。これは受注した工事を行うためにいくらくらいかかるかというものです。第3に,工事の進捗度に関わる情報です。進捗度は色々な方法で見積もられるようですが,一般的なのは,当期に生じた工事原価を工事原価総額で割ることで算定されます。これら3つが信頼をもって見積もられる場合に工事進行基準が適用されます。

工事進行基準を適用した具体例


 東芝が行った工事進行基準の問題点は工事原価総額の過少見積りです。工事原価総額は受注時に見積を行います。この時点で甘く見積っていればお客にとっては安く建設して貰えると思うため入札されやすくなります。しかし,受注時の見積額では設備を作れないため,見積工事原価を増額していく必要が出てきます。
 東芝が入札した工事の内,売上高総利益(売上高−売上原価)に与える影響が大きい案件は電力計「スマートメーター」の設置工事(145億円)とETCの工事(250億円)です。この2案件は入札時点ですでに損失が発生する可能性が認識されていたにもかかわらず,適切な処理(工事原価総額の金額修正+費用として計上される引当金の計上)をしておりませんでした。

 最後になぜこのような不正会計を行ったのかを2点ほど考えてみます。第1に,利益目標に対する過度なプレッシャーがあったのではないかと思います。工事進行基準の特徴は,見積工事原価によって利益金額の計上時点が変化することです。過少見積をしていればしばらく利益を出し続けることが可能です。「スマートメーター」の工事は平成32年に終了するとありました。つまり,過少見積を変更しない限り会計上利益を計上することができ,完成が近づくに連れて損失になるという構造です。仮にスマートメーター担当のトップの任期が短ければ,自分の在任期間だけ利益を出して,退任後は考えないというケースがあり得ると思いました。第2に競争入札に勝つために,過度に原価を過少にしたという理由です。


 記事の中で気になった表現は"electronic toll collection"です。先に第三者委員会報告書を読んでいたので想像が出来ましたが,これはETC「自動料金収受システム」の正式名称です(https://www.mhi.co.jp/products/detail/electronic_toll_collection_system.html)。ETCはよく聞きますが正式名称を知ったのは初めてです。(Ume)

Toshiba accounting scandal snowballs to 24 cases, \54.8 billion

It also disclosed some of the details regarding the nine problem cases already announced and requiring corrections to operating profit totaling \51.2 billion.

Among the nine, a project to develop and install a communications system for smart meters for a utility accounted for \25.5 billion of the corrections. Toshiba won the project in September 2013.

This was followed by a renewal project for electronic toll collection equipment, which accounted for \14.4 billion.

Due to the accounting irregularities, Toshiba has delayed it earnings announcement for fiscal 2014 ended in March this year. It also plans to cancel the dividend for the latest year.

http://www.japantimes.co.jp/news/2015/06/13/business/corporate-business/toshiba-accounting-scandal-snowballs-to-24-cases-%C2%A554-8-billion/


東芝:特別調査委員会及び第三者委員会報告書
https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150612_1.pdf

工事進行基準について
第1回:適用範囲、適用時期、工事進行基準の適用要件・会計処理|工事契約に関する会計基準|EY新日本有限責任監査法人

スマートメーターに関する記事
東芝不適切会計の過半を占める“非スマート”メーターの惨状(ダイヤモンドオンラインより) | 会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)