常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

capital reduction

 興味深い事例なのでシャープが計画している99%減資(capital reduction)に関する記事を取り上げます。この減資を理解するためには,財務諸表の一つである貸借対照表(Balance Sheet:B/S)を知る必要があります。B/Sとは,会社の一定時点での財政状況を知るための表です。左側には資産が記載され,右側には,その資産を手に入れるための原因が書かれております。例えば,他人からお金を借りて資産を手に入れた場合は,負債として記録されます。株主からの出資によって資産を手に入れた場合は,資本金として記録されます。図1の貸借対照表を見ると,資産3000のうち,1001は他人からの借入れによって獲得したものであり,1000は,株主が出資した元手によって獲得したことを意味しております。

図1

 次に利益剰余金についてです。この項目は企業が稼いだ利益の余りを示しております。会社は利益をあげなければ存続できません。この利益の一部は,株主に「配当金」という形で分配しますが,分配しなかった金額は一時的に会社に蓄えられます。この蓄えを内部留保と呼んでおります。図1の例では,会社が設立されてから今まで蓄えた利益が999あるということです。資本金+内部留保は最終的に株主に帰属しております。

 ここからが,本題のシャープの減資についてです。シャープは赤字(利益がマイナス)を重ねた結果,利益剰余金がプラスではなくマイナスになってしまいました。図2をみると,利益剰余金がマイナスになっております。株主に帰属する部分は,資本金+内部留保なので,1000−999=1ということになります。このようにB/S上は資本金が1000となっておりますが,実質的には利益剰余金によって食いつぶされている事が分かります。

図2

 シャープが行う減資は,利益剰余金のマイナスを,資本金で賄うことによって精算することを意味します。資本金を減らすといっても会計帳簿の中での出来事なので経済的な実態は何ら変わっておりません。図3が減資をした後のB/Sになります。株主に帰属する金額は資本金1+内部留保0=1になります。このように,株主に帰属する金額は図2と同じです。 

図3

 ここからは,なぜシャープがこのような減資を行ったのかを考えてみます。第一に,新聞やニュースでは,節税のためという説がありました。会社は色々な税金を払っておりますが,その中には会社の規模に応じて払う税金があります。これを外形標準課税といいます。会社の規模を図る指標の一つが資本金であり,資本金にもとづいて外形標準課税額が決定されます。シャープは資本金を1億円にすることで,今まで支払っていた税額を減らすことが出来ます(僅かな額だと思いますが・・・)。第二は,私の考えですが,社員の意識変革を促す目的を考えました。帳簿上の手続きとはいえ,資本金を1億円にするというのはインパクトがあります。それだけ自社が危機的な状況に陥っていることを視覚的に示し,従業員に危機意識を与えます。企業が大きければ大きいほど抜本的な改革を起こすことは難しいため,危機感を共有し,組織変革をしやすくしたいのではないかと考えました。(Ume)
 
まとめ
・シャープが計画している減資は会計帳簿上の処理であり,実質的には変化していない(株主が保持する株式の価値に変化はない)
・資本金の額によって,税金を払う外形標準課税という制度がある
・減資は,従業員に危機意識を醸成させ,組織変革を行いやすくする狙いがあるのではないか

Sharp shares plunge on capital reduction reports

Sharp Corp. shares briefly tumbled by the daily limit of \80 on the Tokyo Stock Exchange on Monday morning, to slip below \200 for the first time since December 2012.

The 31 percent fall to \178 per share came following reports that the struggling electronics giant is planning a drastic capital reduction to help wipe away losses.

Sharp later recovered ground to trade at \195, down 24.4 percent, by the break.

Weekend reports by the leading Nikkei business daily and other domestic media said Sharp plans to reduce its capital by 99 percent to just \100 million, the upper limit for the category of small and midsize companies with tax advantages.

http://www.japantimes.co.jp/news/2015/05/11/business/corporate-business/sharp-shares-plunge-capital-reduction-reports/