常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

drink the Kool-Aid

映画”The Devil Wears Prada”から、興味深い表現を1つ紹介します。

ゼミ合宿でも発表した表現ですので、ゼミ生のみなさんには復習になってしまいますが、今日取り上げるのは主にアメリカで使われる口語表現“drink the Kool-Aid”です。
劇中では、主人公Andreaが、彼女の恋人Nateを含めた仲間たちとバーで酒を楽しんでいる場面で使われています。
かつてAndreaは、勤め先であるファッション雑誌『RUNWAY』編集部での愚痴をこぼしてばかりでした。しかし、このシーンでは一転し、『RUNWAY』がいかに高尚で素晴らしい雑誌かを仲間たちに語り、それを聞き不審に思ったNateがAndreaにこう語りかけます。

Nate: Someone’s been drinking the Kool-Aid.

劇中の字幕では「洗脳されちまったな」と翻訳されていました。
なお、ここでは”someone”はAndreaのことを指し、「だれかさん」といったニュアンスでNateは皮肉を言っているのだと解釈しました。
weblio英和辞典』『英辞郎』でその意味を調べてみると、ここでは「むやみに信じる、無批判に従う」といった意味で使われていると分かりました。
Kool-Aid”はアメリカで親しまれているフルーツジュース、ク−ルエイドの粉末状の素なのですが、なぜこのような意味合いになるのでしょう。

調べていくと、この表現はある悲惨な事件に関係しているのだと分かりました。
1978年、人民寺院(Peoples Temple)というキリスト教系のカルト集団が集団自殺(mass suicide)を図り、914人が死亡するという事件が起こりました。
設立当初は人種差別撤廃を掲げており、当初は、マスコミでも前向きな報道がなされていたものの、その実態は教祖ジム・ジョーンズとその一派による独裁体制が敷かれており、次第にマスコミや脱退した信者に強い批判を受けるようになります。
ジョーンズ自身も薬物に溺れ、終末的妄想を抱き、ついに革命的自殺(revolutionary suicide)を計画します。
事件当日、信者たちはKool-Aidを飲むようにジョーンズに命じられ、言われるがまま飲んでしまいます。
そのKool-Aidには毒物(シアン化合物)が溶かしてあり、信者は命を落としてしまった、という事件です。

この事件から、「教祖が飲めと言えば毒入りでも飲む」から「妄信的に信じる、無批判に従う」といった意味になるようです。
人々に親しまれている商品名が、このようネガティブな意味合いの強い表現に使われることから、当時のアメリカ国民にとっていかに衝撃的な事件であったかがうかがえます。(Potter)

http://en.wikipedia.org/wiki/Drinking_the_Kool-Aid#Background

http://en.wikipedia.org/wiki/Jim_Jones#Deaths_in_Jonestown