常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

full nameということ

新宿駅でのことだった。小田急から降りて、いつもの人混みの中、改札口に向かって歩いていると突然、"Yougee daNAbee?!"と大きな声でわたしの名を呼ぶ人がいたのである。
振り返ると声の主は、はるか昔に通っていた学校の同級生であった。と言っても、そう理解できたのは彼女が、"Remember me? Jenny! Jenny Long." と言ってくれた直後だった。
ホームの端に移動して立ち話を数分しただけだったが、50年近くの年月がおよそ人にどんな影響を与えるかはお互いに確認できた。なんと彼女は日本人と結婚し、今は富士山が見える某市に住んでいるとのこと。話したいことはたくさんあったが、それぞれ約束があったのでメール・アドレスを交換し、再会の"Keep in touch!"を交わして別れた。
出版社へ向かう車中で、「フルネーム」の機能に思いをはせた。通常、MrやMsの敬称なしに相手の氏名をあげるときのは特別の場合である。思いつくままにあげてみると、こちらは書く方だが、冠婚葬祭での紹介、書物や論文での謝意を示すときなどがこれにあてはまる。
話す方で真っ先に思いつくのは、学校や家庭でのしつけである。先生や親が子どものおいたなどを叱るときがこれで、大体の場合、強い口調で「怒り・叱責」などの感情が込められることが多い。そういう場合には、"Yuji!"だけで十分であるが、"Yuji Tanabe!" とフルネームで呼ばれるのはよっぽどのことをした証拠である。学校で何度、"Yuji Tanabe! Get your butt here this instant!"と言われたことだろうか。そのたびに背中がピンと伸び、その場で直立不動の姿勢になったものだ。
そして、今回のJenny。あれだけの人混みだったので、当然かなりの音量ではあったが、彼女の場合はもちろん強い調子ではなく、イントネーションも末尾が若干上がったものだった(いわゆるhalf-rise)。考えてみると、長い間会うことがなかった昔なじみの人に出会ったとき、ある程度の確信があって相手に確認をするときにもフルネームを使うことがあるのだと、妙に勉強した気分になった。そう言えば、「Toilet」という秀作の映画にもそんな場面があったと記憶している。
こんなことは辞書には載っていないだろうなと思いながら、辞書で著名な出版社の入り口の扉を開けた。(UG)