常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

cut to the heart and unbridled sibling passion

先日ブログに書いたあわれ彼女は娼婦』についての劇評がThe Telegraphにもありました。書き出しが良いですね。個人的な感想を言えば、The Telegraphの劇評の方がレトリックという点で読みごたえがあります。それでは、記事のさわりから英語表現を拾います。

‘Tis Pity She's a Whore, Cheek by Jowl, Barbican, review
‘Tis Pity She's a Whore by the Cheek by Jowl company at the Barbican goes for a high-energy approach - but sometimes less is more.

How do you cut to the bleeding heart of John Ford’s incestuous c1629 shocker – one of the late stragglers of the Jacobean gore-fest era? This twisted tale of unbridled sibling passion could be the stuff of Jeremy Kyle or Jerry Springer, but it could also seem simply sensational, lacking an emotional channel to switch into.

最初に赤字で示したcut to the bleeding heartについてです。『リーダーズ英和辞典』で意味を確認してみるとcut to the heartで「人の胸にひどくこたえる」とあります。そこに強調のbleedingがある訳ですから「とても胸が痛くなるような=ものすごいショッキングな」という意味になります。思わずニヤっとさせるレトリックは、ここにあります。

有名な劇なので、プロットをご存じの方なら、ここに2つの意味が掛けられていることがお分かりでしょう。つまり、劇のクライマックスで兄ジョヴァンニが妹アナベラの胸を短剣で貫き、アナベラの心臓を取り出すというショッキングな場面が掛けられているのです。文字通り、ジョヴァンニはcut to the bleeding heartをしますし、同じように観客もcut to the heartをするのです。

そして、この劇の生々しい恐ろしさを3語で表現している箇所がもう一つ赤字で示したunbridled sibling passion(「抑えられない兄妹の感情」)です。bridleは「馬勒――馬を制御する手綱」のことで否定を表すun-がついているのでこのunbridleは「馬勒がない」という意味から転じて「制御が利かない」となります。LDOCE 4th Eds.ですと“not controlled and too extreme or violent”とあります。このunbridle sibling passionは、まさに的を射った表現です。

日本だと、どうもシェイクスピアの劇ばかり注目されます。おそらく世界で一番有名な劇作家ですし、面白い劇が多いのも事実です。今の英語に大きな影響を与えたことも事実です。しかし、シェイクスピア以外にも面白い劇は、今回のジョン・フォードもそうですが、ベン・ジョンソンなど本当にたくさんあります。喜志先生の『英米演劇入門』などの教科書的でガイドブック的な書籍も出ていますし、翻訳も出ているものもあるので、もし機会があったら読んだり、上演していたらチャンスですので観たりするのも良いと思います。(Othello)