常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

fleeting affair

イングランドの俳優の中でも常にわたしのランキング上位に登場するヒュー・グラント(Hugh Grant)に女の子の赤ちゃんができたようです。今回は,このおめでたい記事から英語表現を拾います。
さて,イングランドのほとんどの新聞で使われているのが,次のfleeting affairです。
His spokeswoman said: "I can confirm Hugh is the delighted father of a baby girl.
"He and the mother had a fleeting affair and while this was not planned Hugh could not be happier or more supportive. He and the mother are on very friendly terms."
http://www.thesun.co.uk/sol/homepage/showbiz/bizarre/3908231/About-a-girl-Hugh-Grant-is-a-dad-for-the-first-time.html
調べてみると,どうも大人のできごとのことらしい。このfleetとは「速い,速やかな,駿足の」,「はかない,つかの間の,消えそうな」という意味で,affairは「情事」のこと。とくにhave an affair withで「〜と関係を持つ」という意味になります(『リーダーズ英和辞典』第2版,研究社)。また,LDOCE 4th Eds.であればfleetingは“lasting for only short time”とあります。ここまで来れば説明は無用。つまり,昔付き合っていた彼女との一夜の関係ということです。それでもファンとして嬉しいのは,その女性との関係は良好だ,ということです。
それでは,ここで視点を変え,なぜ「仕事,用事,営為,行動」などの意味であったaffairに「情事」という意味が加わり,今ではむしろこちらの意味の方が多く使われることがあるのでしょうか。それには1つ仮説として挙げることができます。それは,affairがもともと曖昧な意味を伴う語ということです。
もともとaffairは古フランス語の“à faire(to do)”という意味から来た言葉だとされています。初期の意味では“What one has to do, or has ado with; what has to be done; business, operation.”であり,13世紀から使われた言葉とあります。ここで注目すべきは,businessやoperationという意味が確認でき,さらにto doという意味の他に,ado withという意味があり,意味の振り幅が大きいことです。また,この語が仕事という意味が強調されるようになったのは,15世紀後半であるとされています。
次に,この言葉がもっと曖昧な意味を伴うようになったのは,King James Version以降であると言われています。OEDをそのまま引用致しますと,“1611 Bible 1 Chron. xxvi. 32 Euery matter perteining to God, and affaires of the king.” とあります。ここでの意味は“A thing that concerns any one; a concern, a matter.”と定義されています。
そして,ここで強調したいのは,affairは「情事」だけに特化した言葉なのではなく,何か秘密の仕事のような意味合いが含まれるということです。さっそく,OEDを見てみましょう。
Vaguely, and with intentional indefiniteness, of any proceeding which it is not wished to name or characterize closely; as a military ‘action’ or engagement of undefined character, a political job, a duel (affair of honour), an intrigue (affair of love), etc.
つまり,決して表に出したくない漠然としたものについて使われる名詞であることがわかります。18世紀の1702年にこの意味で最初に使われていることが確認できました。もともとaffairが曖昧な意味であったために,affairに多義的な解釈が許されたのだと考えられます(Oxford English Dictionary)。
このfleeting affairが,ほとんどの新聞で使われている理由として,挙げられるのは,マネージャーの弁以外にも,おそらく,Hugh Grantの俳優としてのイメージがあると思います。最近は,phone-hackingについて意見を言うなど政治色を強めた感もありますが,それでも一般的な彼のイメージとは,駄目男っぷりです。記事でも引用されていますが,About a Boyのときの彼はなかなかの駄目男ですし,Bridget Jones’s Diaryの時もlove affairに生きがいを見出す男を演じています。そのような俳優としてのイメージから,彼の記事でfleeting affairが使われているのだと考えられます。(Othello)
Cf.http://www.telegraph.co.uk/news/celebritynews/8863568/About-a-Girl-Hugh-Grant-delighted-at-becoming-first-time-father-at-51.html
http://www.dailymail.co.uk/tvshowbiz/article-2056360/Hugh-Grant-father-time-fleeting-affair-Chinese-actress-Tinglan-Hong-19-years-junior.html#ixzz1cWQ9XUDe