常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

behind

わたしのようなFunkやSoulのファンにとってSly Stoneとは,英雄であり伝説の音楽家です。時代を象徴する音を作りながら,今日でもHip HopやR&Bにサンプリングや引用をされ続ける音楽家は,おそらくJames Brown, George Clinton, Jimi Hendrixとこの人Sly Stoneしかいないでしょう。今回はThe Guardianの記事から英語表現を拾います。

Funk legend who lives in a camper van: Sly Stone reveals how he ended up broke
Sly Stone, the pioneering musician behind some of the greatest funk hits of the 1960s and 1970s, has joined the Everyday People he once hymned. He is homeless and living out of a camper van parked on the mean streets of south-central Los Angeles.
Five years after he was last seen in public, the singer has turned-up in Crenshaw, the neighbourhood made famous by the film Boyz the Hood. Financial mismanagement combined with decades of vigorous drug abuse has left him estranged from former colleagues and virtually penniless.
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/music/news/funk-legend-who-lives-in-a-camper-van-sly-stone-reveals-how-he-ended-up-broke-2361468.html

問題は記事の冒頭です。ここでは,なぜbehindが使われているのでしょうか。読んだだけで「背景にある」などの意味合いなのはわかりますが,behindの代わりにhasなどにしても変ではない。結論から申し上げると,このbehindには「背景にある」の意味のほかに「過去のもの」という意味を含んでいます。理由として,マネージメント管理で失敗して作曲者Slyに印税がほとんど入って来なくなったことや,Slyが薬物中毒に陥ったこと,オリジナルのSly and the Family Stoneが解散してからSlyにはほとんどヒット曲がないことなどから,Slyの作った曲は,悲しくも彼にとって過去の栄光となっていることが挙げられます。

最初に三省堂の『現代英語語法辞典』初版にあるbehindの核にある意味から見てみます。「この語の中核的な意味は「後」で,場所・時間について前置詞・副詞として用いられる」と記されています。さらに比喩的な意味として「・・・の後に隠れて」というニュアンスがあります。確かにSlyは60年代におけるFunkの先駆者ですが,それは過去の栄光であり,現在のホームレスの姿の後に隠れているのかもしれません。

もう少し調べてみたいと思います。研究社の『新英和大辞典』第6版でbehindの項目の第6義[時間]の説明を見ると「a.〈人〉の過去に」「c. 〈人〉にとって過ぎて(終わって)」とあります。例文として,We have a long history behind us.とあります。さらに『ウィズダム英和辞典』初版であれば第4義「事・物・人が」にて「〈事・物〉の背後(背景)に〈あるなど〉」,第5義「経験など」の項目で「〈人など〉の過去のものに[の]」と説明されています。ここれらを見てみると,ただ素晴らしいFunkのヒット曲が過去にあり,現在はないことがわかります。

最後に,has joined the Everyday People he once hymned.と続いていることからも,それが伺えます。このEveryday PeopleとはSlyの過去のヒット曲で「普通の人,日常でみられるただの人」という意味です。つまりここでは,過去にスターであり英雄だった頃のSlyが賞賛した「ただの人」に本当になってしまったことを皮肉的に示しているのです。最後まで読んでみると,まだまだ制作意欲は衰えていないようです。いつか,もう一度ちゃんとした姿でステージに立って,もう一度日本でライブをしてほしいと願うばかりです。(Othello)
http://www.youtube.com/watch?v=3Ig-6f0g55c
http://www.youtube.com/watch?v=EgVOR28iG_o
http://www.youtube.com/watch?v=j2CE5MXmKh8