常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

山岸勝榮先生による講演 感想(小山本)

明治学院大学英文学科主催のプログラムに参加し,辞書の『スーパーアンカー』シリーズで知られる山岸勝榮先生(明海大学国語学英米語学科 教授)の講演を聴いてきました。
演題は「辞書作りから見た我が国の英語教育」というもので,「辞書」という切り口から英語教育の問題点および示唆を提示されました。内容、その他細かいところは他のゼミ生が書いてくれると思うので,ここでは私が感じた山岸先生の印象について,講演の内容を踏まえながら述べたいと思います。先生の印象,それは先生が「生きた言葉を追い求める教育者」であるということです。
『スーパーアンカー』シリーズをはじめとした「山岸辞書」をお使いの方には説明するまでもないかもしれませんが,先生は英語を単なる「記号」としては捉えていません。講演の中で引用される具体例には,文脈,機能,音声,基本義(先生は「プロフィール」と呼ばれていました)といった要素がすべて盛り込まれていました。
1つ紹介しますと,みなさんは「よろしく(お願いします)」をどう訳しますか。和英辞書の中にはI hope to see more of you.という表現が載っているものもあるそうですが,これは間違い。授業を欠席しがちな学生に対して先生がI hope to see more of you.というのは可能ですが,一般的にこの表現の機能は「交際を申し込む」で,日本語の「よろしく(お願いします)」という意味にはならないそうです。
加えて,先生の話に一貫して見られたのは「学習へのまなざし」です。今日話された英語教育における辞書指導の問題点にも,それに対する示唆にも,その根底には常に「学習者」がいました。そしてそういった学習者への想いが形となって表れたのが『スーパーアンカー』シリーズだったのだとすれば,優れた辞書になるのは必然だったと言えます。
今回の講演で,山岸先生は辞書編集者や研究者であるだけでなく「英語を本当の意味での“コミュニケーション”,さらに言えば“ことば”として捉えている教育者」であるいうことを実感しました。そして,その姿は英語教師に求められるものであり,私たちが目指すべきものなのではないでしょうか。(院生 小山本)

   愛でているわが辞書にサインもしていただきました。宝物です。
      
           懇親会後の明治学院キャンパス