常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

McGuffeyという人名の発音とつづり

4月18日,専修大学神田キャンパスにて日本英語教育史学会第229回の月例会が催されました。発表者は日比惠子先生(滋賀短期大学ビジネスコミュニケーション学科教授)でした。「McGuffey’s Readersの編集者 William Holmes McGuffeyの経歴」というテーマのもと,ご研究の一端を紹介されました。
William Holmes McGuffey(1800-1873)は,米国で1.2億冊以上もの販売実績を記録したMcGuffey’s Readers(読本)の著者です。米国では,さほど有名なReaderであるのになぜ日本では流通しなかったのか,という問題意識を同先生はお持ちで,今回はMcGuffeyの人物紹介が中心でした。今後の研究結果が待たれます。
ご発表もさることながら,私が注目したのは質疑応答の中で,「McGuffeyの発音は?」という島岡 丘先生(筑波大学名誉教授)の質問でした。
"Mc-"と聞くと,ハンバーガーチェーン店のマクドナル(McDonald’s)が思い出されます。日本では「マクドナルド」(学生の間では「マクド」)と,/k/の音はしっかり発音されます。しかしながら,McGuffeyの場合,/məɡʌfi/と発音され,cの箇所の/k/はいわゆる黙字(サイレントレター)となります。
決定的な答えは出ませんでしたが,発音されないのはおそらくMcGuffeyの/k/は隣接する強勢(stress)を受ける/ɡʌ/の部分が卓立(prominence)されることで音変化を受け弱形→消滅という経過を辿ったのではないか。さらには,無声音の/k/が有声音の/g/に飲み込まれる同化も関係しているのではないかという意見が出されました。
この疑問に関してはおそらく質問された島岡先生は定見がおありで,あえて質問されたものと思いますが,その答えにも音声学,音韻論,さらには英語史の観点から詳細に調べる必要があると思いますが,私自身はまったく別の思いで,先生方のやりとりを聞いておりました。
私はこれまで英語発音の規則(つまりlinguistic rule)を音声学書に記述してあるままに覚える習慣があり,自分で追求することがありませんでした。だから,「なぜ」と聞かれると口籠ってしまう自分がそこにいたのです。恥ずかしながらな,英文科の学生なのに,今まで例えばclimbの“b”やpsychologyの“p”などの黙字という音声現実に関して,「なぜ」というメスを入れ,それを自分自身で調べた事がなかったのです。今まで,こうした当たり前のこととしてそのままにしていた英語のさまざまな現象に鈍感だった自分には,今回の学会で得た収穫は予想以上に大きなものでした。(by camel)