常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

学会参加報告

外国語教育メディア学会関西支部中学高校授業研究部会
京都教育大学英語の教え方研究会の報告

2010年4月11日(日)に京都教育大学で開かれた授業研究会に参加してきました(田邉祐司先生のお奨めで…)。
研究発表は2本。最初は西本有逸先生(京教大)による「問題提起:音と意味の一致の次の指導」,もうひとつは,今西竜也先生(京都市立大宅中)の「英語授業における音読指導の改善—より気持ちを伝えるテクニック」でした。
前半の発表では,「次の指導」の前に,まず,「音と意味の一致」ということについての説明がありました。一言でいえば「音と意味の一致」というのは英語を聞いて瞬間的に意味がわかる, ということです。例えばlisteningであれば英語の音声を聞いてすぐに意味がわかる, readingですと,文字を音声化しそれを即座に理解できる, と定義され,そこからテーマである次段階の指導へと進まれました。その段階を,西本先生は“イメージを言語化する力”を育てることであると提起されました。イメージを言語化する力とは何でしょうか。先生はイメージ, 概念を頭の中で内言語化し, それを発話に持っていく能力のことと定義されました。ではどのような指導をしたらこの能力を向上させることが出来るでしょうか。先生はいくつか方法を提示されましたが、そのうちの一つである4コマまんがのdescriptionを参加者で体験しました。まず、4人1組で1コマずつ客観的な視点を持って状況説明していきます。そのあとに最後のオチについて4人で考えます。なぜ?と考えたもの(イメージ)を即座に言葉にして相手に伝えるのがポイントです。このような過程が「次の指導」につながるのではないか, と西本先生は最後にまとめました。
この発表を通じて, ある物事に対して自分の考えを素早く言葉にすることが思ったより難しいものであると痛感しました。頭の中で思い描いているものと, 実際口から出てくるものには思いのほかギャップがあります。そのギャップを埋めていくことはまさに「音と意味の一致」という段階から次のステージに進んでいくのに効果的だと感銘を受けました。
後半の発表は気持ちを伝える音読指導についてです。今までの音読指導には, Chorus Reading, Quick Reading, Read-and-look-upなどがありますが、ここで考えてみてほしいことがあります。文章を読んでいる際に, 気持ちは込められていますか?身体や情動は動いていますか?気持ちは込もっていますか?これらの問題に対して, 発表者である今西先生は「状況・ことば」を理解して文章を音読することが大事なのではないかという考えを提示されました。どういうことかと言いますと, どのような状況や目的でことばが発されているのか, それぞれの語や文法が何を意味しているのか, ということを意識して文章を音読していく, というものです。そこで先生は「より気持ちを伝えるテクニック」としてOral Interpretationを授業に導入されました。Oral Interpretationとは音声で表現することを通して, 言葉の理解を深めていく解釈法です。では一体具体的にどのようにOral Interpretationを現場に導入されたのでしょうか。まず, 文法項目や文章理解を終わらせます。そして、誰が・誰に向かって・どこから・どれだけの距離を置いて・どんな姿勢から・何をしながら・いつ・どんな目的で、というような状況設定を生徒たちに紙に書き出しもらいます。そして, それに合わせた声の調子を教科書の本文に書き添えてはじめて音読練習を始めるのです。この指導法に方向転換されたことにより生徒の成績は飛躍的にアップしたようです。
正直に書きますと,以上は日頃から田邉先生が授業で実践されていることで(先生が連載を再開された『英語教育』6月号<来月発売>でも少し触れておられるようです)それほど新鮮味はなかったのですが,とにかくこの発表から「英語は生きているんだ」ということを再確認した次第です。常に聞き手がいることを意識して英語を話していく大切さを学習の初期段階において, 生徒に意識付けが出来たらどんなに素晴らしいことでしょうか。英語を「記号」としてではなく「人と人をつなぐもの」と捉えられることが出来れば, 英語が好きになっていく生徒・学生は格段に多くなるでしょう。
まだ学生である私は教育現場での経験が全くないので, このように授業のテクニック等を学べることは本当に貴重な経験でした。今後もいろいろな学会に足を運び, 1つでも多くのことを学んでいきたいです。(ゼミ生persimmon柿生)