常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

dark tourism

学生から観光関係の大学院に行きたいとの相談を受けました。またぞろ通訳ガイド関係かなと思っていたら,これがはずれで,dark tourismと呼ばれる分野に興味があるとのこと。Dark tourism?そんな分野があるの?目が点になり,またたく間に立場が逆転してしまいました。

彼女によると,これは歴史に残るような陰惨なことが起きた場所(例:広島の原爆,アウシュビッツ)や悲惨な事件の現場(例:浅間山荘),さらには自然災害に見舞われたところ(例:地震津波の被災地)などを見学し,「観光」とは逆の「観暗」(?)をすることで,これからの生き方を考える上での糧とする「観光」形態とのこと。

それが大学院でも研究の対象となっているそうなのです。matterの反意語としてのanti-matterがあるように,まったく逆の観点から歴史を辿り,これからを見る研究なのでしょう。面白い切り口です。

そのときはたと思い出したのが,thanatourism (死をめぐる旅)という単語。thana-(「死の」)は学部時代に古典語をとっていたときに担当の先生がsana-(「健全な」)との対比で出してこられた記憶があります。ではこのthanatourismとdark tourismはどう違うのでしょうか。気になったのでググってみると亜細亜大学で国際関係学を研究されている方の論考に出会いました。

http://v2.asia-u.ac.jp/kokusai/Kiyou.files/pdf.files/20-12/20-12-takayama.pdf

ざっと読むと,dark tourismは2000年あたりから提唱されはじめた新しい概念で,thanatourismやその他の用語にとって代わって用いられるようになったようです(著者のひとりはJohn Lennonというお名前の研究者!)。

最初の時点でお手上げでしたが,このようにして学生から学ぶことも多々あります。ともかくも彼女の場合は,できれば提唱者がいる大学院へと進むのが良いようですね(日本でやっておられる研究者もおられるとは思いますが...)。勉強になった一日でした。(UG)