常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

空になる

NHK BSプレミアムの"ヤマタビ"番組 「にっぽん百名山」がいい。


さだまさし書き下ろしのテーマ曲に惹かれてみはじめたのだが、「山ブーム」に乗っただけの旅番組とは一線を画していることがすぐに分かった。


内容は深田久弥の「日本百名山」にある百名山をひとつずつ踏破していくものだが、その過程に生き方へのヒントがさりげなく盛り込まれているのがいい。登山は結局は人生であることも痛感させられる。加えて毎回、山に精通した山岳ガイドがいい味を出している。


一昨日、フィーチャーされたのは岩手県岩手山だった。この山は現役の火山である。案内したガイドの山田孝男さんの話が心に残った。ちょうどブナの原生林にさしかかったところだった。


ブナは漢字では「木偏に無」、「橅」と書く。これはブナが水を吸い上げる性質を持ち、水をたっぷりと含むところから曲がりやすく、腐りやすく、建材にならない木だからなのだそうだ。そのためブナを無情にも伐採する「橅退治」が全国各地で起き、代わって金になる杉や檜が植林されたという。現在、山の崩壊があちらこちらで伝えられる。しかし、ブナの森が生き延びた岩手山では山の崩壊は皆無だそうだ。


英語教育でも似たようなことがある。なにかのトレンドが生まれると、教師は一斉にそちらを向く。その過程でこれまで目立たないけどしっかりと培われてきたものが無視される。「あれは古くさい、前時代的だ」と「退治」が行われる。でも「古い、だめだ」と決めつけられた手法の中にもきっといいものはあるはずだ。ブナの森は時流にのり、本質を見失ってしまいがちなわれわれに静かに警告を与えてくれているような気がした。


岩木山はあの宮沢賢治が30回以上登った山でもあった。きっと賢治もものごとの本質を考えながら、この山を愛でたのだろう。



岩手山」の再放送は9月10日(月)午後3時30分〜4時00分 である。(UG)