常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

Et tu, Japan!

The Economistを読んでいたら,原発に関する記事がありました。今回は,その小見出しに注目したいと思います。

Et tu, Japan

Then, 25 years later, when enough time had passed for some to be talking of a “nuclear renaissance”, it happened again (see article). The bureaucrats, politicians and industrialists of what has been called Japan’s “nuclear village” were not unaccountable apparatchiks in a decaying authoritarian state like those that bore the guilt of Chernobyl; they had responsibilities to voters, to shareholders, to society. And still they allowed their enthusiasm for nuclear power to shelter weak regulation, safety systems that failed to work and a culpable ignorance of the tectonic risks the reactors faced, all the while blithely promulgating a myth of nuclear safety.

このEt tu, Japanの元ネタの“Et tu, Brute”は,ブルトゥス(ブルータス)に刺された共和制ローマユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)が,死ぬ間際に言った言葉として有名です。もっとも,シェイクスピアの悲劇『ジュリアス・シーザー』(Julius Caesar, 1599年初演)のシーザーの台詞で一気に有名になった言葉です(『ジュリアス・シーザー』は,歴史劇などの解釈もありますが,わたしは悲劇と考えます)。もしかしたら『ロミオとジュリエット』のあの台詞よりも有名かもしれません。さて,少し解説をしましょう。

Et tu, Bruteは,英語ではなくラテン語です。シェイクスピアは,ほかの同年代の劇作家よりもラテン語を使う量が非常に少ないことで知られています。そのため,この台詞は,シェイクスピアによる数少ないラテン語の台詞ということになります。ちなみにこの台詞は “Et Tu, Brute!”と続いたあと英語で“Then fall, Caesar”と続きます。

意味は?と言うと,解釈によって様々な訳が生まれますが,「ブルータス,お前もか」がもっとも定着しているでしょう。ここで重要なのが,シーザーがこの“Et tu, Brute”という台詞を言った背景には,「今まで信じていたものに裏切られた」ということがあることです。

今回のThe Economistの記事に戻ると,今まで原発は安全であると謳われてきました。しかし,3.11の最初の地震で既に原子炉が壊れ,それまでの安全神話と共に原発は崩壊しました。つまり,現実を踏まえると“Et tu, Japan”は,チェルノブイリの事故から25年が経ち,原発安全国だと信じられていた日本の原発が崩壊し,世界を裏切ったということを読み取ることができます。さらに,記事を読んでみても,かなり強い言葉で書かれています。(Othello)