常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

ご指名質問回答go to the dogs

UG先生からご指名質問をいただいたので回答をいたします。劇の中で本物の動物が登場する例はたまに見かけます。シェイクスピアの悲喜劇の傑作The Winter's Taleでは,当初は,本物の熊が劇で使われたなんて言われています。もちろん熊いじめの後の弱った熊です。そして,今回の記事。まさかHamletをやるのは,ダジャレ(pun)じゃないよな,と思ったら予想が的中。思わず笑ってしまいました。

英語には動物を使った慣用表現が結構あります。たとえば,身近な動物でいうとcatだと,今回の記事に使えそうなものに限れば,“bell the cat"(危険なことをすすんで行う、THE AESOP FABLESから),“There’s more than one way to skin a cat." (従来のやり方ではなく,いろいろな方法がある)などがあります。

当然,犬に対しても同じ。こちらは,シェイクスピアも使っています。Julius Caesarの“let slip the dogs of war”というフレーズは,特に有名でしょう。今では,新聞の記事,ちょっとした表現としても使われていて,後にthe dogs of warという題名を冠した小説や某プログレッシブ・ロック・バンドの曲でも使われているので,馴染みがあるでしょう。

小説や音楽以外でも,犬はポップ・カルチャーにとって馴染みのある動物です。よくスラングなどでも使われる。ちょっと口が悪いようですが,bit--なんて言葉も聞いたことがあると思います。さらに,アメリカ人ラップ・スターSnoop Doggで有名になった自動詞dogで「悪さをする」,名詞dogで「仲間,友達,相棒」なんて意味のヒップ・ホップ・スラングもあります。中学生の頃,アメリカのヒップ・ホッパーに憧れて使っていたことを思い出しました。

調べてみると,意外にもdogは,ネガティヴな意味で使われることが多いことがわかります。『リーダーズ英和辞典』であれば第3義に「不快なもの,くだらないもの,売れない品物,負け犬,死筋,失敗,おんぼろ,ぽんこつ,役立たず,クズ,カス」などで確認できます。少し辞書を見るだけでも“die like a dog”, “eat dog”, “try it on the dog”,“treat ~ like a dog”などがあります。

さて,今回の見出し“Shakespeare goes to the dogs”にあるgo to the dogですが,こちらもちょっとネガティヴな意味があります。こちらは,慣用表現のgo to the dogs「破滅する,没落する,だめになる=改善しにくい」という意味です。さらに,この記事のタイトルは2つの意味を孕んでいることが,パっとわかります。まず,そのまま直訳的に「シェイクスピアが犬になる」という意味。そして,先ほどの「シェイクスピアが悲惨なことになる」という意味です。いずれにしろ,ここではどちらの意味にも採れるように,書かれています。

記事の最後にある“Delaney's confident Remus is up to the job, but just in case there is an understudy - or in this case an underdog.”という言葉が良い味を出しています。(Othello)