常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

read

先ほどの記事で気になったのは,なぜreadには「考える」「勉強する」という意味があるのか,ということです。結論から言ってしまえば,readの原義とイングランドのある大学の試験の一幕が大きな要因であると言えます。それでは,readという言葉を探ってみます。

ある辞書にはreadの原義は「助言する」とあります。しかし,Oxford English Dictionaryにて示されるreadの原義は “To consider, interpret, discern, etc.”と大きく「思考すること」とあります。この原義では,第1義aにあるように“To have an idea; to think or suppose that, etc.”という意味で最初に使われ,ベーダの『イギリス教会史』におけるラテン語から英語翻訳にて初めて使われました。900年のことです。この意味では18世紀までは使われていたようです。

一方で,“To peruse, without uttering in speech.”,いわゆる「読む」という意味についてはどうか?実は意外にも初出は,900年のベーダの翻訳版『イギリス教会史』より12年も古く888年であるとされています。最初に使ったのは,かのアルフレッド大王です。意味を見てましょう。第5義aに示される意味は以下の通りです。

5.a To inspect and interpret in thought (any signs which represent words or discourse); to look over or scan (something written, printed, etc.) with understanding of what is meant by the letters or signs; to peruse (a document, book, author, etc.); to understand (musical notation);

太線で示したように思考が伴います。これは,OEDによる原義の定義と一致します。肝心の「研究する」という意味でのreadはどうかというと,この意味では19世紀にさかのぼります。OEDのreadにある第5義fからの引用をご覧ください。

To study (a subject, a ‘school’) at a university; to read for (a degree).

とくにこれは,Greatsと呼ばれるオックスフォード大学の人文系学科の試験を受けるための勉強がという意味で使われ始めました。おそらく大学内の内輪で話された言葉だったのでしょう。最初に活字として現れたのは,カナダ生まれイギリス育ちの作家グラント・アレンのStrange Storiesの“Since I have begun reading philosophy for my Greats”(p. 175)という一節だと言われています。オックスフォードのGreatsは,おそらくものすごく難しく,専門的だったのでしょう。ここから,readにstudyの意味が加わったのです。もちろん,ここには,試験なので,「黙読すること(to peruse)」,「解釈すること」,さらに「思考すること」の意味合いが含まれていることは間違いありません。

つまり,readにはもともと「読む」という行為のほかに,「思考」に関係する意味合いがあり,19世紀になってオックスフォード大学の学生の言葉から,「勉強する,研究する」という言葉が生まれ,広まったのだと考えられます。また,俳優のヒュー・グラントが使っている映像を見たことがあります。ただしこの場合ヒュー・グラントはオックスフォード大学で英文学を学んでいたということに注意する必要があるでしょう。すべてを踏まえると,元の記事にあったreadが結構深い言葉なんだな,と思えてきます。(Othello)

http://d.hatena.ne.jp/A30/20120121/1327109384