常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

No man is an island

今日は日曜日だったので朝から映画を何本か観ました。さて,最初に観たのはイングランドの映画『モーリス』です。これは,フォースターの小説の翻案です。ヒュー・グラントの大出世作ですし,登場人物の話す綺麗なRP(容認発音)は非常に参考になります。
この作品では同性愛が扱われているので,それが作品のテーマだと勘違いされがちです。しかし,これは単にメイン・プロットに絡んでいるだけです。この作品の大きなテーマはイデオロギーへの反抗であります。崩壊しそうなイングランドの階級制度を,同性愛というファクターをもって飛び越えているのです。これについては,また機会があったらお話したいと思います。
次に観た作品は,ガラリと雰囲気が変わって,ヒュー・グラント主演の『アバウト・ア・ボーイ』(About a Boy)です。こちらの作品はイングランドの小説家ニック・ホーンビィの小説の翻案で,ヒュー・グラントお家芸であるダメ男っぷりが発揮されています。今回はここから英語表現を拾いたいと思います。
場面は作品の冒頭。ヒュー・グラント演じる主人公ウィルは無職の男で,一日中テレビを観て過ごしています。いつものようにテレビを観ていると,「ミリオネア」がやっていました。その時の問題が下のスクリプトです。
Let's play Who Wants To Be A Millionaire?
Who wrote the phrase "No man is an island"?
John Donne?
John Milton?
John F. Kennedy?
Jon Bon Jovi?
さて,正解はどれでしょうか。実は答えは2つあります。答えはJohn DonneとJon Bon Joviです。John Donneの Devotions Upon Emergent Occasions and Death's Duel(『不意に発生する事態に関する瞑想』)の17番‘Meditation’に“No man is an island,/ Entire of itself./ Each is a piece of the continent,/ A part of the main.”とあります。続いてJon Bon Joviは彼の最初のソロ・アルバムで“Santa Fe”という曲で“No man is an island”という句を使っています。ちなみに主人公ウィルはこの問題に対して “Jon Bon Jovi, too easy”と答えていました。答えが2つあるなんて,クイズの問題として欠陥があります。
しかし,ここで重要なのはミリオネアの答えなのではなく,“No man is an island”(どんな人も孤島ではない)ということばが映画ないで繰り返され,作品の重要なテーマになっている点です。作品では,〈人は孤島ではない〉ということから転じて〈人は一人では生きることができない〉という人間関係の絆が描かれています。たとえば,独身で無責任男の主人公ウィルは,あるところで出会った見知らぬ少年マーカスに,その絆を見出しています。同じようにマーカスは,ウィルと絆を作りつつも,シングル・マザーの母親に絆の確認をしようとします。
主人公ウィルの場合は,表面的には孤独を愛し自分だけの空間で満喫することに喜びを見出しています。この彼がどのように他者と絆を作り上げるかが,作品の見どころだと思いました。ちょうど今のご時世に合っている内容ではないでしょうか。(Othello)