常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

Much ado about… #2

電子版Mail紙の記事,Much ado about theatre-loving couple who have been steaming up the stallsにたくさん興味深い英語表現がありました。今回は,その中から気になる表現をいくつか拾いたいと思います。
Much ado about theatre-loving couple who have been steaming up the stalls
http://www.dailymail.co.uk/tvshowbiz/article-1393326/Alex-Kingston-Rob-Lowe-challenge-theatre-lovers-steam-stalls-Donmar.html

最初に見出しから拾います。これは,みなさんもおわかりのように,“Much ado about”はシェイクスピアの喜劇――私も大好きで,思い入れの深い作品のひとつの――『から騒ぎ』(Much Ado About Nothing, 初演1599年)からの引用でしょう。このadoは「騒ぎ」の意味です。
続いて,見出しの後半の強調箇所であるstallは演劇用語で「3. ストール,一等席《劇場一階正面の舞台に近い特別席》(の客)」(『リーダーズ英和辞典』第2版,研究社,加筆修正筆者)の意味です。念のためですが,ここでは名詞としての「1. 露店,売店,屋台 2. 牛舎」や他動詞としての「[自動車など]にエンストを起こさせる」(『オーレックス英和辞典』初版,旺文社)などの意味では使われていません。
以上のことを踏まえると見出しは「一等席の客を興奮させる場内カップル騒ぎ」などと訳せるかと思います。
ここでは,劇場でアツアツとイチャつくカップルについて言及されています。もちろん,記事内では,それに関連した表現がたくさんでてきます。たとえば,ソウル・シンガーMarvin Gayeの歌でもおなじみのフレーズ “get on”,近年のイギリス映画(『ブリジット・ジョーンズの日記』など)でもよく使われていた“shag”,馬術用語から派生した “cavort”,そして“get intimate”など,さまざまな表現で同じ事柄が表現されています。
このことを踏まえるとMuch Ado About Nothingが語呂合わせや権威付けなどの単なる引用なのではなく,引用されるべき理由があることがわかります。秘密は“nothing”という言葉にあるのですが,ここではアーデン版『から騒ぎ』(Arden Shakespeare, 2007)のイントロダクションでの説明にとどめたいと思います。
“Nothing was slang for the female genitalia, and was pronounced the same as ‘noting’, which could mean ‘noting’ or ‘knowing’”(McEachern, 2007, p. 2)
俳優陣もびっくりしたことでしょう。まさに熱々のカップル騒ぎです。(Othello