常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

Curtis

今回は,アメリカのソウル・グループのインプレッションズ(The Impressions)のヒット曲「ピープル・ゲット・レディ」(People Get Ready, 1965)から落穂拾いをします。このグループのリード・シンガーである,カーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield)は,音楽の力(非暴力)により人々の意識を変えようとした,ソウル・ミュージック界の知性派ヒーローであり伝道者の一人です。それでは,さっそく歌詞をご覧ください。2ヴァース目です。
People get ready, there's a train to Jordan

(強調筆者)
さて,ここに出てくる人々が電車に乗って向かう“Jordan”とはどこのことでしょうか。ずばり,ヨルダン川の西岸のこと,つまり「約束の地」(Promised Land)カナンです。ここでは,『旧約聖書』にて,モーセが迫害された民を引き連れエジプトから「約束の地」を目指したことを,この曲が発売された1960年代後半のアフリカ系アメリカ人への人種差別を撤廃するための公民権運動になぞらえているのだと推測されます。
さらに“Jordan”とは,『新英和大辞典』(第4版,研究社)によると「Lebanon(レバノン)南部に発し死海に注ぐ川(洗礼者ヨハネイエス・キリストに洗礼を授けた川とされる)」(加筆修正筆者)とあります。このイメージから,清き正しい者として,差別と反対するイメージが想像されます。
現在では,この曲は,ソウル・ミュージックのアンセムとして歌い継がれています。しかし,その背景には,歌詞の中で旧約聖書のヒーローやイエス・キリストを想起させる歴史的な理由があるのです。また,最後のヴァースでは,『新約聖書』における「最後の晩餐」を引き合いに出したと思われる歌詞も確認することができます。このように,普段なにげなく聴いている音楽の中にも,英語を理解する言葉が広がっているのだと改めて感じました。
ちなみに,「ピープル・ゲット・レディ」はさまざまなシンガー,ミュージシャンによりカバーされています。例えばソウル界の女王アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)や,イギリスの三大ギタリストの一人であるジェフ・ベック(Jeff Beck)は旧友ロッド・スチュワート(Rod Stewart)と一緒にこの曲をカバーしています。
さらに(http://d.hatena.ne.jp/A30/20110502/1304333020) に登場するThe Notorious B.I.G.2pacも指導者カーティスの曲をサンプリングしています。この曲に込められたメッセージも含めて聴き比べてみると,この曲の良さを再確認できるかもしれません。(Othello
Cf. http://d.hatena.ne.jp/A30/20100405/1270447149
http://d.hatena.ne.jp/A30/20100619/1276913567

http://www.youtube.com/watch?v=lenHYXtiqoI
http://www.youtube.com/watch?v=ervf7hIxZ3Y