常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

Dr. Tim Murphey連続講演の感想(小山本)

昨日(02/02/11),文京学院大学で開かれた英語教育シンポジウムに参加し,Dr. Tim Murpheyの講演を聴いてきました。
http://d.hatena.ne.jp/A30/20110127/1296087931
Creating Languaging Agensingというタイトルの講演は,languagingやagensing,flowなどの話題の概念を押さえながら,学習者中心のアプローチについてコミュニケーション学や脳科学の観点から迫るものでした。そこでまずはcreatingやlanguaging,agecing,flow,incrementalizing,entifyingといった基本概念について(自分なりにではありますが)簡単にまとめ,そのあとで講演の「肝」と自分の感想を述べたいと思います。
タイトルにもあるcreatingはCommunicationが立ち上がる創造的な瞬間,languagingはlanguageを動詞として捉え,語彙や文法などの記号として言葉使用,agencingは外界の世界とつながるための仲介役(agency)としての言葉使用をそれぞれ意味しています。languagingとagecingはソシュールの言うLangueとParole,Palmerのlanguage as codeとlanguage as speechと共通する部分があるようにと思いました。
また,flowはChallenges(学習者にとっての難易度,困難度)とSkills(学習者の持つ技術や能力)のバランスがとれた状態を指し,脳科学の研究によれば,このflowの段階あるとき,脳内で神経伝達物質のdopamineがもっとも分泌され,学習者が快感にも似た刺激を受け,motivateされるそうです。
さらに,incrementalizingとentifyingについては,incrementalizingが人は失敗を繰り返すことで成長するものという失敗に対して寛容な学習者観,言い換えればrisk-takingのススメであるのに対し,entifyingは,例えば「自分は暗記が苦手だ」のように決めつけてしまうといった学習を阻害する柔軟さに欠けた姿勢を意味します。
以上のような基本概念を押さえて上で,今後,英語教育がどのような方向へ向かうべきなのか。Murphey博士の提案の1つが以下に示すような考え方の転換です。
Information → Questioning
Success   → Challenging
Teaching   → Experiencing
これは一言で言えば「学習者中心の体験,発見型授業」です。知識を与える(Information)のではなく,発問をして学習者に思考させる(Questioning)。完璧(Success)を目指すのではなく,試行錯誤(Challenging)の中で言語を習得させていく。教え込む(Teaching)のではなく,体験させ,学習者の発見を促す(Experiencing)。このようなMurphey博士の提案はコミュニケーションや学習者の動機付けという点において核心をついた,本質的なものだと思いました。
そして,同時に感じたのが,これらはすべて田邉先生が普段の授業内で実践されている手法であり,また,言葉は違えども,教員志望の学生や現場の先生方に対してこれまで訴えかけられてきたことだということです。自分が田邉先生から受けてきた指導は間違いなく時代の先端,そして教育の本質を捉えたものであることを改めて実感しました。Murphey博士の講義を聞きながら,先生のへの感謝,そして来年度へのやる気が沸き上がってきました。(院生 小山本)